日本生理人類学会について

生理人類学とは

 生理人類学は,ヒトの生物科学的特性を時間軸,空間軸を俯瞰して探求する自然人類学の中にあって,生理学的な観点からヒトの本質を研究する学問です。自然人類学の中には古くから生理学的研究の流れがありますが,生理人類学はその点を明確にしたものです。生理機能の測定は骨や化石からでは不可能であり,自ずと「生きているヒト」が研究の対象となります。こうした生理人類学の特性から,現代文明に生きるヒトの人類学ということもできます。

  生理人類学の研究対象はヒトの生理的な機能特性に関することはすべてふくまれるといっても過言ではありません。ここでは生理的なメカニズムを追求するだけではなく、何故そのようなメカニズムが存在するのか、進化、適応という観点から探求することが求められます。わが国では高次神経や骨格筋の機能研究に始まり,個体レベル,集団レベルにおける全身的協関,生理的多型性,環境適応能,機能的潜在性,テクノ・アダブタビリティなどの研究へと発展してきました。

  今日,われわれが生活している環境は,かつてわれわれの祖先が生活していた環境とは著しく異なっています。科学技術の発達は一面では快適な生活環境をもたらしましたが,他方,さまざまな新たな問題を生じさせています。生理人類学は,人類が直面しているこのような問題について解答を与えることができる科学として,大きな期待と注目を集めています。

 (文責:勝浦哲夫)

生理人類学の研究

 生理人類学では、「人間の科学 the science of man」という人類学の共通理念のもとに、生理を中心に心理や行動などを含めた人間特性を解明しようとする基礎的な研究はもとより、衣食住や労働、健康など、生活の営みとそこに生きる人間を対象にした応用的な研究まで、幅広い取り組みが行われています。そのような研究は、厳密に制御された実験室でさまざまな人間の反応を計測する実験室研究や、実際の生活環境に生きる人間の姿を観察し記録するフィールド研究まで、さまざまな研究手法によって実践されています。

 日本生理人類学会では、これらの研究成果を社会に還元し真に健康で快適な生活環境の実現に貢献するために、さまざまな製品や仕組みの開発に資する情報を発信するとともに、企業等との共同研究にも積極的に取り組んでいます。

 生理人類学で行われる研究にはさまざまな対象がありますが、近年の学会誌や年次大会などで発表された研究の対象は、おおむね以下のように分類することができます。いずれも人間とその生活を研究の対象にしていると言うことができますが、ここに挙げられていないものも含めて総合的な人間の理解が促進されることを目指しています。

●人間の特性

生体リズム・体温調節・姿勢

脳機能・精神機能・情動・感情

感覚(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・体性感覚など)

遺伝・発育・発達

●人間と環境

温熱・光・音・高地・森林

●人間の生活

衣服・栄養・住環境・労働・身体活動・睡眠

健康・疾病・医療・高齢者・福祉・デザイン

●人間の測定と評価

測定法・評価法

 生理人類学の研究成果は、日本生理人類学会が刊行するJournal of Physiological Anthropologyと日本生理人類学会誌に学術論文として発表されます。これらの学会誌は、いずれもオープンアクセスの電子ジャーナルとして刊行され、下記のURLから、どなたでも無料で読むことができます。

https://jphysiolanthropol.biomedcentral.com

https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jjpa/-char/ja/

 また、日本生理人類学会の年次大会では、シンポジウム、講演、口演発表、ポスター発表等として研究の成果が発表されます。これらの研究発表の内容は、大会ごとに発行される概要集に掲載されます。年次大会については、各大会のホームページをご覧ください。

 

生理人類学会の歴史

 生理人類学の組織的活動は、生理人類学懇話会に始まります。1978年11月8日、新潟市で開催された日本人類学会・日本民族学会連合第32回大会の前日のことです。世話人代表の吉田敬一(初代会長)はじめ51名の有志によって生理人類学懇話会が発足し、日本生理人類学会の歴史が時を刻み始めました。

 1979年2月に第1回生理人類学懇話会が東京で開催されて以来、2019年の日本生理人類学会第80回大会まで、原則年2回の学術集会を日本各地で開催してきました。一般社団法人となった2020年からは、年次大会として年1回の開催となりました。日本生理人類学会の学術集会は、参加者間で活発な質疑応答が展開されることが特徴です。折しも新型コロナウィルスのパンデミックによって第81回・第82回大会はオンラインでの開催を余儀なくされましたが、ポストコロナの時代を見据えた新しいスタイルの研究交流を積極的に模索し、展開しています。

 日本生理人類学会の学会誌の歴史は、1982年に刊行された生理人類学懇話会会誌に遡ります。最初の生理人類学懇話会会誌は会員向けの情報誌的な性格が強いものでしたが、1983年の第2巻1号からAnnals of Physiological Anthropology(生理人類誌)として、英文と和文の論文を掲載し年4回発行される本格的な学会誌に生まれ変わりました。その後1995年には、APPLIED HUMAN SCIENCE Journal of Physiological Anthropologyに名称を変更して、完全英文誌として生まれ変わりました。また、和文論文を発表するための和文誌の刊行を希望する会員の声を反映して、1996年に日本生理人類学会誌が刊行されました。その後、英文誌は2000年に、和文誌は2017年にJ-STAGEによるオープンアクセスとなりました。さらに、英文誌は2006年に現在のJournal of Physiological Anthropologyに改称し、2012年には冊子体を廃止したオープンアクセス電子ジャーナルとしてBioMed Central(BMC)から刊行されるようになりました。このように英文誌は我が国の学術団体が刊行する学会誌の中でも、いち早くオープンアクセスの電子化に取り組んだ例として注目されました。また、英文誌はインパクトファクターの取得にも積極的に取り組み、2013年に最初のインパクトファクターが公表されて以来、順調にその値は向上しています。

 日本生理人類学会の歴史の中で、生理人類学の国際組織としての国際生理人類学連合(International Association of Physiological Anthropology, IAPA)との関係を見逃すことはできません。生理人類学は我が国を中心に発展した学術領域であり、日本生理人類学会はIAPAの中核としての役割を担っています。IAPAの国際会議である国際生理人類学会議(International Congress of Physiological Anthropology, ICPA) は1991年(東京、人間-生活環境系国際会議と共催)を皮切りに隔年で開催され、2022年(オレゴン・米国)までに15回を数えます。その間、ドイツ、クロアチア、米国、モスクワに生理人類学の拠点ができました。日本生理人類学会はこれまでに、第1回、第3回(1996年、奈良)、第8回(2006年、鎌倉)、第12回(2015年、千葉)の4回の開催を担当してきました。開催の合間には日本生理人類学会と海外の学会や大学とのジョイントシンポジウムなどの国際企画も積極的に行われています。

(主な沿革)

1978年11月  生理人類学懇話会発足(初代会長・吉田敬一)

1982年10月  生理人類学懇話会会誌Vol.1, No.1 発行

1982年10月  生理人類学研究会に名称変更,/p>

1983年  1月  会誌を “The Annals of Physiological Anthropology”(生理人類誌)に改称

1987年  4月  生理人類学会に改称

1991年12月  第1回国際生理人類学会議(International Congress of Physiological Anthropology)を東京で開催(会議長・加地正郎)

1993年  4月  日本生理人類学会に改称

1995年  1月  会誌の英文誌化に伴い“APPLIED HUMAN SCIENCE Journal of Physiological Anthropology” に改称

1996年  2月  和文誌「日本生理人類学会誌」を創刊

2006年  1月  英文誌を “Journal of Physiological Anthropology”に改称

2012年  1月  英文誌を完全電子ジャーナルとして発行

2020年  4月  一般社団法人日本生理人類学会を設立

定款

定款はこちら(PDF)からご覧下さい。

主な活動

学会誌

英文誌「Journal of Physiological Anthropology」

本誌はBMC(BioMed Central)のオープンアクセスジャーナルとして、原著論文、総説、短報、技術報告等を掲載する英文学術誌です。Web of ScienceR(トムソン・ロイター), BIOSIS PreviewsR*、Biological AbstractsR*、 MEDLINE、PubMed、Scopus、J-STAGE、JDream-II等に登録されています。

和文誌「日本生理人類学会誌 – Japanese Journal of Physiological Anthropology」

本誌は年4回刊行され,総説,原著論文,研究報告,短報,技術報告等を掲載する和文学術誌です。

主催行事

学術大会(年に1回、6月ごろ開催),セミナー,公開シンポジウム

学会各賞(歴代受賞者)

本学会では会員に対し、次のような賞を設けその栄誉を称えています。尚、これまで優秀な論文に対しては、論文賞が授与されていましたが、2003年度授賞分より、論文大賞および優秀論文賞として賞が授与されることになりました。また2014年度授賞分より,功績賞および優秀研究賞が新たに授与されることになりました。

日本生理人類学会功績賞

生理人類学の研究発展に特に顕著な貢献をした個人を対象とする。。

日本生理人類学会賞

生理人類学の発展に特に貢献した個人を対象とする。

日本生理人類学会論文大賞

本学会誌(英文誌、和文誌)に、特に優秀な論文を複数発表した個人を対象とする。

日本生理人類学会優秀研究賞

生理人類学分野の発展に貢献した、学術的に影響力のある優れた生理人類学的な 研究を行っている個人を対象とする。

日本生理人類学会優秀論文賞

本学会誌(英文誌、和文誌)に掲載された論文の中で、特に優秀とされる論文を対象とする。

日本生理人類学会論文奨励賞

本学会誌(英文誌、和文誌)に掲載された論文の中で、特に優秀とされる論文を発表した若手研究者を対象とする。

会勢状況(2023年8月7日現在)

正会員530名、学生会員20名、海外会員15名、賛助会員5団体、 名誉会員17名、会友2名

名誉会員(五十音順)

  • 飯塚 幸子
  • 石井 勝
  • 市丸 雄平
  • 大野 静枝
  • 片岡 洵子
  • 古賀 俊策
  • 曾根 良昭
  • 高崎 裕治
  • 田中 正敏
  • 田村 照子
  • 栃原 裕
  • 中根 芳一
  • 橋本 修左
  • 早弓 惇
  • 藤野 武彦
  • 宮野 道雄
  • 矢永 尚士
  • 吉田 敬一

会友

  • 佐藤 方彦
  • 中垣 克久

役員一覧(2023-2024年度)

会長

樋口 重和(九州大学)

 

副会長

青柳 潔(長崎大学)

恒次祐子(英文誌;東京大学)

 

理事

青木 朋子(総務(理事会・総会、庶務);熊本県立大学)、有馬 和彦(渉外(国内);長崎大学)、石橋 圭太(財務;千葉大学)、岩永 光一(和文誌;千葉大学)、太田 博樹(渉外(国内);東京大学)、北村 真吾(研究;国立精神・神経医療研究センター)、草野 洋介(倫理・学術情報;西九州大学)、工藤 奨(学会各賞選考;九州大学)、甲田 勝康(倫理・学術情報;関西医科大学)、小崎 智照(情報発信(HP、PANews、記録);福岡女子大学)、佐藤 香苗(総務(理事会・総会、庶務);東海学園大学)、下村 義弘(PAデザイン;千葉大学)、高雄 元晴(PAデザイン;東海大学)、高倉 潤也(情報発信(HP、PANews、記録);国立環境研究所)、中村 晴信(アドバイザリー;関西医科大学)、仲村 匡司(情報発信(HP、PANews、記録);京都大学)、西村 貴孝(渉外(国際);九州大学)、前田 亜紀子(資格認定;共立女子大学)、前田 享史(総務(理事会・総会、庶務);九州大学)、元村 祐貴(研究;九州大学)、安河内 朗(アドバイザリー;九州大学)、安河内 彦輝(研究;関西医科大学)、山内 太郎(渉外(国際);北海道大学)、劉 欣欣(財務;労働安全衛生総合研究所)、若林 斉(総務(理事会・総会、庶務);北海道大学)、若村 智子(渉外(国内);京都大学)

 

監事

勝浦 哲夫(千葉大学)

山崎 和彦(実践女子大学)

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