生理人類学では、「人間の科学 the science of man」という人類学の共通理念のもとに、生理を中心に心理や行動などを含めた人間特性を解明しようとする基礎的な研究はもとより、衣食住や労働、健康など、生活の営みとそこに生きる人間を対象にした応用的な研究まで、幅広い取り組みが行われています。そのような研究は、厳密に制御された実験室でさまざまな人間の反応を計測する実験室研究や、実際の生活環境に生きる人間の姿を観察し記録するフィールド研究まで、さまざまな研究手法によって実践されています。
生理人類学の研究成果は、日本生理人類学会が刊行するJournal of Physiological Anthropologyと日本生理人類学会誌に学術論文として発表されます。これらの学会誌は、いずれもオープンアクセスの電子ジャーナルとして刊行され、下記のURLから、どなたでも無料で読むことができます。
日本生理人類学会の学会誌の歴史は、1982年に刊行された生理人類学懇話会会誌に遡ります。最初の生理人類学懇話会会誌は会員向けの情報誌的な性格が強いものでしたが、1983年の第2巻1号からAnnals of Physiological Anthropology(生理人類誌)として、英文と和文の論文を掲載し年4回発行される本格的な学会誌に生まれ変わりました。その後1995年には、APPLIED HUMAN SCIENCE Journal of Physiological Anthropologyに名称を変更して、完全英文誌として生まれ変わりました。また、和文論文を発表するための和文誌の刊行を希望する会員の声を反映して、1996年に日本生理人類学会誌が刊行されました。その後、英文誌は2000年に、和文誌は2017年にJ-STAGEによるオープンアクセスとなりました。さらに、英文誌は2006年に現在のJournal of Physiological Anthropologyに改称し、2012年には冊子体を廃止したオープンアクセス電子ジャーナルとしてBioMed Central(BMC)から刊行されるようになりました。このように英文誌は我が国の学術団体が刊行する学会誌の中でも、いち早くオープンアクセスの電子化に取り組んだ例として注目されました。また、英文誌はインパクトファクターの取得にも積極的に取り組み、2013年に最初のインパクトファクターが公表されて以来、順調にその値は向上しています。
日本生理人類学会の歴史の中で、生理人類学の国際組織としての国際生理人類学連合(International Association of Physiological Anthropology, IAPA)との関係を見逃すことはできません。生理人類学は我が国を中心に発展した学術領域であり、日本生理人類学会はIAPAの中核としての役割を担っています。IAPAの国際会議である国際生理人類学会議(International Congress of Physiological Anthropology, ICPA) は1991年(東京、人間-生活環境系国際会議と共催)を皮切りに隔年で開催され、2022年(オレゴン・米国)までに15回を数えます。その間、ドイツ、クロアチア、米国、モスクワに生理人類学の拠点ができました。日本生理人類学会はこれまでに、第1回、第3回(1996年、奈良)、第8回(2006年、鎌倉)、第12回(2015年、千葉)の4回の開催を担当してきました。開催の合間には日本生理人類学会と海外の学会や大学とのジョイントシンポジウムなどの国際企画も積極的に行われています。
(主な沿革)
1978年11月 生理人類学懇話会発足(初代会長・吉田敬一)
1982年10月 生理人類学懇話会会誌Vol.1, No.1 発行
1982年10月 生理人類学研究会に名称変更,/p>
1983年 1月 会誌を “The Annals of Physiological Anthropology”(生理人類誌)に改称
1987年 4月 生理人類学会に改称
1991年12月 第1回国際生理人類学会議(International Congress of Physiological Anthropology)を東京で開催(会議長・加地正郎)
1993年 4月 日本生理人類学会に改称
1995年 1月 会誌の英文誌化に伴い“APPLIED HUMAN SCIENCE Journal of Physiological Anthropology” に改称
1996年 2月 和文誌「日本生理人類学会誌」を創刊
2006年 1月 英文誌を “Journal of Physiological Anthropology”に改称