設立趣旨
木材は、柱やはりなどとして様々な建築物を支えることはもちろん、私たちが直接見たり触れたりする部分にも使われる、いわばハードもソフトもこなす材料です。鉄やコンクリートは木材よりも強く、ハードな性能に長けていますが、鉄やコンクリートに囲まれて24時間365日生活し続けることは、私たちには恐らく困難です。木の床を考えてみてください。私たちがその上で跳んだり撥ねたりしても壊れない強さを持ちつつ、盛大に転んでも怪我をし難い柔らかさも兼ね備えています。暖色の材面には自然の意匠である木目模様が現れていて、触れると温かさを感じることになります。木材は、私たちが生活環境を構築するのに「ちょうどよい」いくつもの性質を有しており、私たちにとって最も親しい材料といえます。このため、木材は暗黙のうちに「温かい」「自然な」「柔らかい」印象を私たちに与えるようです。 このようなポジティブなイメージはおおいに結構なのですが、人に対する「木の良さ」はどうもイメージ先行になりがちで、科学的な説明が十分ではありません。人が使うものであるにもかかわらず、木材の使い方が人の評価軸に沿って考えられていないのです。木材には工芸材料という側面もあり、あえて木-人の関係を科学的に考えることは芸術や工芸の立場から見れば野暮なのかもしれません。しかし、「木を有効に人の生活に活かして使う」ことを考えると、木-人の関係を科学的に考えることがやはり重要に思えてきます。 木材は鉄やプラスチックスなどの工業材料に比べると、物性のばらつきがすごく大きい材料です。そして、私たちはすごく気まぐれな生物です。ばらつく木と気まぐれな人のマッチングを図るには、特別な方法論が必要になると予想されます。木材の物性については、日本木材学会において多くの物理学的、化学的な研究蓄積があります。一方、木-人の関係を研究していく場合には、“人の理解”や“人を測る”部分に未熟な点が多々あり、ここを補うために、日本生理人類学会の皆様の豊富な研究蓄積を利用させていただく必要があります。 国産材の利用の機運が過去に例のないほど高まってきている昨今、単に木をたくさん使えばよい、木ならば何でもよいではなく、どの木をどこにどのように使うかを、人の評価軸に沿って考えることは非常に重要です。また、このコンセプトに賛同するハウスメーカーや建材メーカーなどが増えつつあります。木を利用するのは人間です。木と人との関係を科学的に知り、それを活かした利用方法の提案ができることを目指すとともに、関心を持つ方々の情報ハブとなる研究会にできればと考えております。企業戦略として木を使いたい方、漠然と木と人に興味がある方のご参加を期待いたします。
事務局
部会長:仲村匡司( 京都大学)
E-Mail: nakamasa@@kais.kyoto-u.ac.jp
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