日本生理人類学会会長
樋口重和(九州大学大学院芸術工学研究院教授)
この度、2023年6月から日本生理人類学会の会長に就任いたしました。前学会長の安河内朗先生からバトンを受け継ぎます。これから2年間、どうかよろしくお願いいたします。本学会は1978年に生理人類学懇話会として発足し、その後名称の変更などを経て今年で45年目を迎えます(詳細な歴史は学会ホームページ「日本生理人類学について」をご覧ください)。私自身は大学4年生の時に初めて学術大会に参加し(第26回大会)、気が付けば30年くらいの年月を学会とともに過ごしてきました。学会の組織運営とのかかわりは、若手の会からスタートし、理事になってからも様々な担当をさせていただきました。今後は会長として、学会のために尽力したいと思っております。
学会の目的について、様々なご意見はあると思いますが、その分野の学問の探究と発展を目指し、その成果を社会に還元することが重要であることは言うまでもありません。また、学会の活動は会員の皆様の会費によって支えられていますので、会員サービスを如何に充実させるかということも重要な課題です。そして、これらの二つを両立させるための学会の役割は、1)会員が研究成果を発表できる場を多く設けること、2)会員同士の交流ができる場を多く設けること、3)会員にとって重要な情報をできるだけ発信することだと感じています。
具体的には学術大会の開催があります。今年の6月に福岡で第84回大会が開催されました。久しぶりの完全対面の大会となりました。会場には活気が戻り、活発な質疑が繰り広げられ、学会のもつエネルギーを改めて実感することができました。その大会についても、会員サービスを考えたちょっとした工夫が検討されています。今までは非会員は筆頭発表者になれませんでしたが、第83回大会から、指導教員が会員であれば、非会員の学生でも筆頭で発表ができるようになりました。また、概要集は大会参加者にしか配布されていませんでしたが、第84回大会からは、会員であればどなたでも会員専用のマイページから全文をPDFでダウンロードできるようになりました。
また、本学会は長年にわたって年2回の学術大会を維持してきましたが、2020年から年1回に減らし、大会の密度を高める方針に移行しました。その中で、新たな試みとして、大会前日(金曜日)にフロンティアミーティングを開催することにしました。公募型の企画で、若手の会や研究部会による自由集会的な要素があり、本大会とは違った雰囲気を味わえます。一方、学会が年1回に減ったことは、会員にとっては成果発表を行う機会が減ったことになり、会員サービスという点では縮小したことになります。そこで、学術大会とは別の時期にもフロンティアミーティングを新しいスタイルで実施することを計画しています。少しでも多くの方に会場に足を運んでいただきたいと願っています。
次に学術雑誌の刊行があります。本学会の英文誌「Journal of Physiological Anthropology(JPA)」が今年で発刊40周年を迎えます。今年6月に公開されたインパクトファクターは、発刊以降初めて3を超えました。サッカーに例えると、アジア予選を突破しワールドカップ出場を果たした段階と言えるかもしれません。今後は、この水準を維持しつつ、予選リーグを突破できる実力を付けて行きたいと思います。英文誌は早々にオープンアクセス化を実現し、出版費(Article Processing Charge: APC)は著者が支払う形式をとっています。会員サービスという点では、筆頭著者が会員の場合はAPCの割引が受けられます。そのため、積極的な投稿を呼びかけていますが、一方でJPAの掲載率は4割前後です。その点で、皆様の投稿をすべて掲載できるわけではないことは、ジレンマとして心苦しく感じています。情報発信という点では国内向けに和文誌「日本生理人類学会誌」も発行しています。こちらへの論文投稿も是非ご検討ください。その他、PANewsやホームページを通して会員の皆様にとって有益な情報を発信していきたいと思います。
本学会の特徴として、学会を支える理事の専門が多様であることがあげられます。学会の様々な活動は約30名の理事を中心に支えられています。しかし、学会の運営活動とは別に、理事がどのような専門を持っていて、どのような研究を行っているのか、会員の皆様にはなかなか伝わらないのが現状です。これはとてももったいないことだと感じています。具体的な専門は、体温調節、睡眠・生体リズム、運動、自律神経機能、感性・脳機能、公衆衛生、看護、労働、リハビリテーション、栄養、発達と成長・加齢、遺伝、光・温熱・気圧・木材環境、被服、気候変動などとても多岐にわたっています。代議員の方も含めるとさらに多様性は増します。これらの専門が、学会を通して様々な形で刺激し合いながら結び付き合うのが、本学会の特徴です。今後は、今まで以上に理事・代議員の顔(研究内容)の見える学会を目指したいと思います。
その他にも本学会では、研究部会、資格認定、PAデザイン、若手の会、学会各賞選考、国内外の他学会との連携など、様々な活動を行っています。学会会員には大学、公的機関、企業、NPO、学生など様々な方がおられます。これらの活動によって、一人でも多くの方が本学会に入会してよかったと思えるように、安心して大会に参加し、多くの満足が得られるように、魅力ある学会を目指していきたいと考えています。引き続きよろしくお願いいたします。
2023年7月吉日